2021.01.01

養生のすすめ

薬膳

体を温める食べ物「薬膳」の考え方で冷え症対策

漢方では、食べ物は健康維持や病気の予防のための基本であると考えます。毎日の食事に「薬膳」の考え方をとり入れ、不調の改善や病気の予防を目指しましょう。

薬膳の考え方

「薬膳」とは、日々の暮らしのなかに「薬食同源」の知恵を取り入れるというもの。薬食同源は、「命は食にあり、食誤れば病にいたり、食正しければ病自ずと癒える」、つまり、病気を治療する「薬」も、日常の「食」も、ともに生命を養い、健康を保つためには欠かせないものという意味です。

ただし、「薬膳」といっても、特別な生薬や食材、料理法が必要なわけではなく、身近な食材で手軽にとり入れることが可能です。「薬膳」の第一歩は食材を選ぶこと。一般的に体に良いといわれる食べ物を多くとるということではありません。食材は体を温める、栄養価が高い、胃腸のはたらきを良くするといった作用や、反対に、体を冷やす、胃腸に負担をかけてしまうといった特徴をもったものもあり、それぞれの人にとって良い面、悪い面があります。こうした食材の特徴は一様ではなく、人の体質や体調、性別、年齢などによってもはたらき方が異なります。それぞれの体質に合った食材を選ぶことが大切です。
漢方でいう健康とは、心身ともにバランスがとれている状態のこと。不規則な生活やストレス、食生活の乱れなどがあると、体のバランスが崩れ、不調につながります。不調の原因は、一人ひとり違うため、自覚症状だけでなく、生活習慣などもチェックして、対処法を考えていきます。「薬膳」は、その対処法のひとつでもあります。

食べ物のはたらきや性質を知る

性質による分類「食性」

薬膳では、さまざまな不調を食事でケアできる部分が大きいと考えます。そこで一つひとつの食べ物が体にどのようにはたらくかを重視します。こうしたはたらきは「食性」といって、5つに分類されます。普段の食事では、熱性と温性は体を温める食材、涼性と寒性は体の熱を冷ます食材にまとめて考えてよいでしょう。熱性・温性は冷えやすい人向き、体の熱を冷ます涼性・寒性はほてりやすい人向き、どちらにも偏らない平性は、体質には関係しないとされています。

食性 特徴 主な食材
熱性(ねっせい)
温性(おんせい)
体を温める ・寒い季節が旬
・寒い地域でとれる
・濃い色
・水分が少なくて固い
ニンニク、トウガラシ、エビ、鶏肉、納豆、クルミ、カボチャ、ショウガ、ネギ、シソ、ニラなど
平性(へいせい) 涼性でも温性でもない 白米、小麦、サツマイモ、ジャガイモ、牛肉、豚肉、卵、大豆、豆乳など
涼性(りょうせい)
寒性
体の熱を冷ます ・温かい季節が旬
・暑い地域でとれる
・薄い色
・水分が多くやわらかい
アサリ、シジミ、トマト、セロリ、ナス、キュウリ、大根、豆腐、ワカメ、緑茶、小麦粉など

味による分類「五味」

食べ物には、甘味、辛味などの味がありますが、漢方では、その味を5つに分け、それぞれが体にはたらくと考えます。味によるはたらきの分類は次のとおりです。

五味(ごみ) 主なはたらき 代表的な食材
酸味(さんみ) すっぱい 引き締める、出過ぎるものを止める 酢、梅、柑橘類など
苦味(くみ) にがい 余分なものを取り除く セロリ、ニガウリ、コーヒー、緑茶など
甘味(かんみ) あまい 疲れや体の緊張をやわらげる 米、麦、イモ類、牛乳、ハチミツなど
辛味(しんみ) からい 身体を温め、めぐりを良くする ネギ、ショウガ、ニンニク、唐辛子、わさび、ニラなど
鹹味(かんみ) しおからい 固いものをやわらかくする 海藻、のり、みそ、エビ、カニなど

旬の食材が重要な季節の薬膳

日本では、春夏秋冬の移り変わる美しい四季がありますが、季節ごとに寒さ、暑さ、湿気、乾燥など気候の変化が激しく、季節の変わり目に体調を崩す人もいます。冷え症さんができる季節ごとの重要なセルフケアは、毎日の食事にあります。

春におすすめの食べ物

春は、冬にとどまっていた体のなかの「気(※)」が表に出ようと活動するため、「気」の乱れによる体の不調が現れやすくなる時期です。とくに、「気」が体の上半身にのぼって、首から上に症状が出やすくなります。足元が冷えていると、「気」がますます上にのぼりやすくなるので、下半身を温めるのがおすすめです。また、春は、ストレスの影響を受けやすく、気持ちが不安定になりやすいといわれます。

※体をめぐっているエネルギーを表します。

薬膳ポイント

五味のなかでは、酢、梅干し、柑橘類など酸味のあるものがおすすめです。漢方で酸味はストレスをやわらげるはたらきがあるとされています。

夏におすすめの食べ物

夏に起こりやすい不調のなかで注意したいのは、冷房などによる冷えです。暑いからといって冷房での冷やし過ぎはNG。通勤電車やオフィスでの薄着にも注意が必要です。そのうえ、冷たい飲み物ばかりを飲んでいると、胃腸を冷やしてしまいます。おなかを触ってみて、冷たいと感じたら胃腸が冷えているサインかもしれません。過剰に胃や腸を冷やしてしまうと消化機能が落ち、栄養素をしっかりとることができず、夏バテを引き起こす原因にもなります。

薬膳ポイント

体の熱を冷ますのは、アイスやキンキンに冷えたビールなどの冷たい飲食よりも、水分を補い、ゆるやかに体を冷やすトマト、キュウリ、ナス、レタスなどの旬の食材がおすすめです。夏でも冷えの症状がつらいという方は、これらの食べ過ぎは控え、加熱できるものはできるだけ温めて食べるようにしましょう。

秋におすすめの食べ物

秋に起こりやすい不調のなかで注意したいのは、乾燥と冷えです。とくに乾燥しやすいのは大気が最初に入る鼻やのどなどの粘膜です。体が冷え、さらに粘膜が乾燥すると外からの異物が侵入しやすくなり、かぜなどをひきやすくなります。また夏の疲れが出ている時期なので、冬の前にしっかり栄養をつけておきましょう。

薬膳ポイント

気道にうるおいを与えて、通りをよくする食材として、レンコン、大根、梨、はちみつなどがあげられます。また、シイタケ、シメジ、えのきなどのキノコ類は、夏に消耗した体力を戻すのにおすすめの食材です。

冬におすすめの食べ物

冬はもちろん冷えに注意しましょう。冷えによってさまざまな症状が悪化しやすい時期。基本的には体を温める食材を、温かい食べ方で食べて、体を温めましょう。冷えに負けない体をつくるには、栄養バランスの良い食事を心がけることが大切です。基本となる栄養素である、糖質、脂質、たんぱく質、ビタミン、ミネラルのほか、食物繊維なども必要です。肉や魚介、豆類、卵からたんぱく質や脂質を、野菜やキノコ、海藻などからビタミンやミネラル、食物繊維を、そして主食のごはんやパンから糖質を摂取します。一日の食事でさまざまな食材を組み合わせて、バランスよく栄養素を摂るよう心がけましょう。

薬膳ポイント

食材では体を温める温性の根菜類を中心に献立しましょう。たとえば、豚汁、筑前煮、煮込みうどんなど温かくして食べる料理がおすすめです。

冷えにおすすめの簡単薬膳

体を温める食べ物を選ぶ

体を温める食材の代表は、なんといってもショウガです。冷えで悩んでいる人は、できるだけ熱性・温性の食べ物を知り、食事のなかに増やしていくように心がけましょう。寒性・涼性の食べ物は加熱して食べるのがおすすめです。女性の場合、「血」の停滞や減少によりめぐりが悪くなることが多いため、造血作用がある葉酸を多く含むレバー、ウナギ、卵黄などもとるようにしましょう。

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「水毒」に気をつけた食べ方

日本は湿度が高い気候のため、体の水分バランスの乱れによる不調、いわゆる「水毒(すいどく)」の方が多いと言われています。とくに梅雨から夏、秋雨前線による長雨が続く秋ごろまでは注意が必要です。冷え症の方の場合は、滞った水分が体内で冷え、それがさらに体を冷やすという悪循環が起こりやすくなります。アルコール、清涼飲料水、冷たい飲み物、脂肪分の高い食材、塩辛い食材は、体に余分な水分をためこむ一因となるため、摂りすぎには注意が必要です。

薬膳は食べ方も重要

よく噛んで食べる

薬膳にはもう一つ大切なことがあります。それは、よく噛んで食べること。飲み物などで流し込むように食べる人は、消化や吸収がうまくできていない可能性があります。噛むことによって、食べ物を細かくするのはもちろんですが、消化を助ける酵素などが多く含まれる唾液が出て胃のはたらきを助けることになります。よく噛んで、ゆっくり食事ができると満腹感も得られやすくなり、ダイエットにもいいですよ。

甘い物を控える

甘い物で注意が必要なのは、体を冷やしやすい白砂糖です。白砂糖や、これにカラメル色素がついた三温糖は、どちらも体を冷やす食材に含まれます。反対に、体を温めるのは黒砂糖、どちらでもないのがハチミツ。スイーツとして選ぶなら、甘味料に黒砂糖やハチミツを使ったお菓子を意識して選んでみるとよいでしょう。フルーツは、冷やしたほうがおいしくいただけますが、できるだけ常温に近い状態で、旬のものを楽しむ程度にとどめておきしましょう。ドライフルーツは体を冷やしにくく、市販のお菓子に比べ栄養価も高いため、甘いもが食べたくなったときのおやつにおすすめです。