2021.09.01

漢方ブログ

それって更年期障害? -症状別対処法とおすすめ漢方薬-

更年期に入ると、手足の冷えや下半身につらい冷えの症状が現れる方もいます。冷え対策をしてもなかなか温まらなかったり、下半身が冷えて上半身は熱くなる「冷えのぼせ」という症状も現れたりします。これは、女性ホルモンの減少による更年期の症状の一つと考えられています。漢方の考え方で、体のバランスを整えていくことが大切です。

更年期障害とは

更年期に起こりやすい症状は?

閉経の平均年齢は50歳頃。40代後半~50代前半の閉経をはさんだ10年ほどの期間を「更年期」と呼びます。更年期では、ほてりや冷えのぼせ、イライラ、不眠といった、さまざまな不調が現れることがあります。

この時期に該当する日本人女性の数は約920万人※。更年期女性の約7割がなんらかの症状を自覚しているという調査報告もあり、これを踏まえると、約640万人もの方が、自覚症状をもっていることになります。中には、症状が重かったり、いろいろな症状が重なって現れたりするため、「更年期障害」として薬の服用や治療が必要な場合もあります。
※総務省統計局(2021.8)

更年期の症状は、次のとおりに大きく分けられます。思い当たる症状がないか、チェックしてみてください。

血管運動神経の症状

精神神経の症状

運動器関係の症状

このほか、消化器系(吐き気など)、婦人科系、泌尿器系などの症状が現れる場合もあります。

更年期に起こる症状は多岐にわたり、症状の種類や程度に個人差が多くみられるのが特徴です。自覚症状がほとんどない人もいれば、日常生活に支障をきたすほど症状が重い人もいますが、検査をしても、病気としての原因が見つからない場合も多くあります。このような、検査では異常が見つからないものの、さまざまな自覚症状が現れるものを「不定愁訴(ふていしゅうそ)」※といいます。

※不眠症、冷え症、ホルモンバランスの乱れによるイライラなど、現代医学では原因のはっきりしない自覚症状の訴え。

更年期障害のセルフチェック

国内における更年期障害の診断でよく用いられているのが、「簡易更年期指数(SMI※)」というセルフチェックリストです。

簡易更年期指数(SMI)

症状の程度に応じ、自分で○印をつけてから点数を入れ、その合計点をもとにチェックをします。どれか1つの症状でも強く出ていれば、強に○をしてください。

症状 点数
1.顔がほてる 10 6 3 3
2.汗をかきやすい 10 6 3 3
3.腰や手足が冷えやすい 14 9 5 0
4.息切れ、動悸がする 12 8 4 0
5.寝つきが悪い、または眠りが浅い 14 9 5 0
6.怒りやすく、すぐイライラする 12 8 4 0
7.くよくよしたり、憂うつになることがある 7 5 3 0
8.頭痛、めまい、吐き気がよくある 7 5 3 0
9.疲れやすい 7 4 2 0
10.肩こり、腰痛、手足の痛みがある 7 5 3 0
合計点

簡易更年期指数(SMI)の自己採点評価法

0~25点 上手に更年期を過ごしています。これまでの生活態度を続けていいでしょう
26~50点 食事、運動に注意をはらい、生活様式などにも無理をしないようにしましょう
26~50点 食事、運動に注意をはらい、生活様式などにも無理をしないようにしましょう
51~65点 医師の診察を受け、生活指導、カウンセリング、薬物療法を受けたほうがいいでしょう
66~80点 半年以上長期間の計画的な治療が必要でしょう
81~100点 各科の精密検査を受け、更年期障害のみである場合には専門医での長期的な対応が必要でしょう

更年期障害の原因とは

更年期障害は、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が急激に減少し、ホルモン分泌のバランスが乱れることが原因です。更年期に入ると、卵巣機能が低下しはじめ、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が、まるでジェットコースターで落ちるように急激に減少します。これによるバランスの乱れが、さまざまな不定愁訴となって現れやすくなるのです。

女性ホルモンのはたらきには、乳房や子宮を発達させる、排卵を促す、妊娠を維持するといったイメージがありますが、女性特有の体のはたらきにだけにかかわっているわけではなく、次のような生命活動の維持にも深く関わっています。

そのため、更年期に女性ホルモンが減少すると、ホルモンの変動によって自律神経のバランスも乱れ、心や体のあちこちに不調が出てきてしまうのです。こうした不調とうまく付き合っていくためにも、更年期は、それまでの食事や生活習慣、心の状態を見直さなければならない時期でもあります。

更年期に冷えがつらいのは?

「冷え症」はもともと女性に多い悩みですが、更年期になってから症状がより強くなったという人も多いようです。

こうした症状は、更年期に女性ホルモンの分泌が減り、自律神経が乱れることで起こると考えられます。この時期、下半身が冷えているのに、顔からは汗が出るほど暑いといった「冷えのぼせ」の状態が現れやすいのはそのためです。

また、更年期はもともと体に備わっている体温を作り出したり、全身に体の熱を届けたりするはたらきが徐々に低下してくるため、体は冷えやすくなります。「冷えのぼせ」で暑いからといって、冷たいものを飲んだり、薄着をしたりせず、とくに下半身のおなか、腰、足を冷やさないように心がけましょう。

漢方ではこう捉える

昔から更年期に起こるさまざまな不定愁訴に対しては、漢方薬が使われていました。とくに、不快な症状が強く現れ、日常生活に支障を来しているにもかかわらず、検査では異常が見られないといった場合の治療によく用いられています。

漢方では、「気・血・水(き・けつ・すい)※」のバランスの乱れから不調を探っていきます。女性のホルモンバランスの変化に関連する不定愁訴を「血の道症」と呼び、更年期障害もその一つと捉えられています。更年期障害は、血の流れが滞る「お血(おけつ)」や血が不足する「血虚(けっきょ)」によって、気の流れに異常が生じる「気逆(きぎゃく)」「気滞(きたい)」のほか、水の流れが滞る、不足する「水毒(すいどく)」などが起こるとされています。

個人差はありますが、どのバランスが乱れているかで現れる症状が変わってきます。

これらの原因を探り、改善する漢方薬が用いられます。

※体を維持するための3要素「気・血・水」
気(き):体をめぐっているエネルギーを表します。
血(けつ):血液や血液によって運ばれる栄養素、熱を表します。
水(すい):体内の液体のうち、「血」を除いたもののこと。

更年期障害の主な症状とセルフケア

血管に関係する症状

血管に関係する主な症状は、ほてり(ホットフラッシュ)、動悸、頻脈、発汗、手足の冷えなどです。更年期障害の冷えの特徴は、上半身は熱くても、下半身は冷えている「冷えのぼせ」です。冷えのぼせの人は、手足は冷たいのに、顔や頭がのぼせたように熱くなりぼーっとしたり、汗がどっと出たりすることがあります。そんなときは、顔や脇などのぼせた部分の熱を逃がすために、一時的に風を通して冷ましましょう。ただし、必要以上に体を冷やさないように注意してください。そして、おなかや足元などを温めて、冷え症を改善するよう心がけることが大切です。

セルフケアのポイントは、体を温めて血行を良くし、「血」の不足や滞りを改善すること。「血」を増やし、めぐりをよくする牛肉の赤身、レバー、ナツメ、赤パプリカ、トマトなど赤い食べ物がおすすめです。また、無理のない程度に体を動かし、「血」のめぐりを良くするようにしましょう。

また、体が冷えて「血」が滞っていると、「水」のめぐりも悪くなります。滞った「水」が体を冷やすだけでなく、さらに血流を悪化させてしまいます。「水」の滞りを改善する食べ物では、小豆、カボチャ、ナス、玄米などがあります。ハトムギ茶、ウーロン茶、ほうじ茶などのお茶も水のめぐりを良くします。とくに冷えの方には小豆茶がおすすめです。

精神神経に関係する症状

精神神経に関係する主な症状は、イライラ、不安、落ち込み、抑うつ、不眠、意欲の低下、集中力の低下などです。更年期の女性が抱えがちな家庭や仕事でのさまざまな問題も、精神神経に関わる症状には大きく影響しているといわれています。

セルフケアのポイントは、食事と気分転換。イライラしたときは、シソやセロリ、レモンなどの柑橘類、ハーブなど香りのある食べ物、不安や落ち込みがあるときは、牛乳、卵、ハチミツなど精神を整えるはたらきをもつ食べ物などがおすすめです。また、家事や仕事もがんばり過ぎず、楽しく過ごせる時間を増やすようにして気分転換を図りましょう。

運動器に関係する症状

運動器に関係する主な症状は、肩こり、腰痛、むくみなどです。漢方では、冷えや疲れ、ストレスなどが原因となって「血」のめぐりが悪くなることで、更年期に肩こりや腰痛の症状が悪化しやすくなると考えられています。

セルフケアのポイントは、下半身を温めて血行不良を改善し、熱がこもりやすい上半身とのバランスを整えること。食事では、「血」を補い、めぐらせる食材をとりましょう。黒豆、黒ごま、人参、鮭、牛肉、鶏のレバーなどがおすすめです。

また、血行不良を防ぐため、同じ姿勢は続けないようにして、1時間に1回は動くようにしましょう。

消化器に関係する症状

消化器に関係する主な症状は、食欲不振、吐き気、おう吐などです。これらの症状は自律神経の乱れから起こりやすくなります。

セルフケアのポイントは、吐き気やおう吐があるときは、横になるなどして安静にすること。また、食欲がないときは、消化のよい食べ物や発酵食品で胃腸をいたわるようにしましょう。おなかの周りを冷やさないようにすることも大切です。

更年期の症状別おすすめの漢方薬

加味逍遙散(かみしょうようさん)

イライラや不安などがある方の更年期障害に

こんな漢方薬です

ホルモンバランスの乱れによるイライラや不安感などの症状だけでなく、不眠症やのぼせ感がある方にも適した漢方薬です。現代医学では原因のはっきりしない「不定愁訴」によく用いられます。症状がさまざまに変化する方にもおすすめです。漢方では、不定愁訴は、生命エネルギーの「気」や、全身に栄養分を運ぶ「血」のめぐりが悪くなったために起こると考えられています。「加味逍遙散」は気のめぐりを整え、「血」を補って十分にめぐらせることで、女性特有のさまざまな不調を改善していきます。

効能・効果

体力中等度以下で、のぼせ感があり、肩がこり、疲れやすく、精神不安やいらだちなどの精神神経症状、ときに便秘の傾向のあるものの次の諸症:冷え症、虚弱体質、月経不順、月経困難、更年期障害、血の道症※、不眠症

※血の道症とは、月経、妊娠、出産、産後、更年期など女性のホルモンの変動に伴って現れる精神不安やいらだちなどの精神神経症状および身体症状のことである。

桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)

足は冷えるが上半身はのぼせる方の更年期障害に

こんな漢方薬です

「気」や「血」のめぐりが悪く、滞った状態で上半身がのぼせて、下半身が冷える場合におすすめの漢方薬です。のぼせと冷えが同時に起こるのは、「血」の流れが滞るとともに「気」の流れが乱れ、体内で熱がこもってしまうからだと考えられています。熱は上へのぼるため、顔はのぼせやすいのに足が冷えるといった状態になります。「桂枝茯苓丸」は、そのような方の症状の改善に適しています。このほか、生理痛や生理周期などに伴い悪化するニキビにも使われます。

効能・効果

比較的体力があり、ときに下腹部痛、肩こり、頭重、めまい、のぼせて足冷えなどを訴えるものの次の諸症: 月経不順、月経異常、月経痛、更年期障害、血の道症※、肩こり、めまい、頭重、打ち身(打撲症)、しもやけ、しみ、湿疹・皮膚炎、にきび

※血の道症とは、月経、妊娠、出産、産後、更年期など女性のホルモンの変動に伴って現れる精神不安やいらだちなどの精神神経症状および身体症状のことである。

当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)

冷え症の方でめまいやむくみなどを伴う更年期障害に

こんな漢方薬です

「血」の不足を補い、流れを良くし、体内の水分の偏りを調整することで体を温める漢方薬です。また、漢方では体の「水」のバランスが崩れると、めまいや頭痛、むくみなどの症状があらわれると考えます。当帰芍薬散は「水」のバランスを整えることで、これらの症状を改善していきます。その他、生理不順や生理痛などにも使われます。

効能・効果

体力虚弱で、冷え症で貧血の傾向があり疲労しやすく、ときに下腹部痛、頭重、めまい、肩こり、耳鳴り、動悸などを訴えるものの次の諸症:月経不順、月経異常、月経痛、更年期障害、産前産後あるいは流産による障害(貧血、疲労倦怠、めまい、むくみ)、めまい・立ちくらみ、頭重、肩こり、腰痛、足腰の冷え症、しもやけ、むくみ、しみ、耳鳴り

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