冷え症(冷え性)と上手につきあう 温 the LIFE

専門医に聞く 『冷え症と上手につきあい、美しく生きる』上田ゆき子先生

専門医に聞く 『冷え症と上手につきあい、美しく生きる』

日本大学医学部内科学系総合内科総合診療医学分野上田ゆき子先生

「冷えやすいのは仕方ない」「生理痛がつらいのはいつものこと」と、がまんして過ごしていませんか? 小さな不調は体のサイン。医師として多くの女性の悩みに向き合ってこられた上田先生に、“心身のバランスが崩れたところを見つけて整える”という「漢方の知恵」についてお聞きしました。つらかった「冷え症」を、美しく生きるために自分を見直すチャンスに変えられるかもしれません。

冷えは万病のもと、未病は病気のサイン

「冷え症」とは、どんなものですか?

漢方でいう「冷え症」は、体を温める力が不足している、バランスが乱れた状態をいいます。「冷え症」というと、冷えの症状だけを問題にしがちですが、頭痛や不眠などの不調の原因が「実は冷えだった」という患者さんがたくさんいます。たとえば西洋医学では、深部の体温が35℃以下のとき「低体温症」として診断しますが、漢方医学では、検査で異常が見つからなくても「いつも手足の冷えを感じる」といった自覚症状が重要になります。まだ病気には至っていない、いわゆる「未病」の状態で治療を始めるのです。冷えは万病のもと、漢方では「未病」のサインの代表的な症状です。

同じ「冷え症」でも、自覚症状は人によって違っていますよね?

人によって冷えの感じ方はまったく違います。代表的な自覚症状には、「全身が冷えている」「手足の指先だけが冷えている」「下半身だけが冷えている」などがあります。このほか、自覚症状として現れにくく、自分でも気づきにくいのが、手足は温かいのに「胃が冷えている」状態。漢方では、腹診という診察がありますが、触ってみるとみぞおちのところだけが極端に冷たくなっていることがあります。「ほら、冷えてるでしょ?」と、自分の手で触らせてみてはじめて、冷えていることに気づく場合があります。

本当は冷えていることに気づけない「隠れた冷え」は、どうやって見つけたらいいでしょう?

そうですね、ヒントは胃腸です。胃が冷えている多くの方は、普段からなんとなく胃腸の調子が良くないと感じています。「胃がもたれる」「胃が張っている」「消化が良くない」など、実は内臓の冷えが引き金になっていることに気づけていない。そういう方は、だいたい慢性的に胃腸の不調をかかえているのですが、慢性的であるが故に、そんなものだと思って冷えを意識していません。胃腸が弱いという方は、おなかの胃のあたりを触ってみてください。「冷たい」と感じたら要注意です。

漢方は体全体のバランスを整えるもの

「冷え症」に気づかずに、他の病気で来院される方も多いのですか?

はい、「生理不順」「月経困難症」「PMS」「無月経」など婦人科系の症状で来院される患者さんに多いですね。たいてい胃のところが冷たく、胃腸の症状を伴っています。たとえば生理のときに、おなかがゆるくなる人もいるのですが、これは生理のしくみと消化機能につながりがあるからなんです。西洋医学では、婦人科系の症状と胃腸の症状とは、まったく別の疾患として扱われますが、漢方の視点からみると、人の体は一つひとつの部位ではなく、全部つながっているという考えのもとで治療を行っていきます。

上田ゆき子先生

「冷え症」を体全体でみるとしたら、どんな漢方処方で治療をすすめていくのですか?

先ほどお話したように、冷えにはいろいろなパターンがあるので、症状の出方によって処方を変えていきます。

  • 胃のところが冷えている場合…消化器系を温めるような漢方薬
  • 手足の指先だけが冷える場合…体のすみずみまで血が行き渡っていないので、血のめぐりを良くする漢方薬
  • 全身がとにかく冷えている場合…全身の代謝が落ちているので代謝をあげていくような漢方薬
  • 下半身が冷えてむくんでいる場合…体に水分が滞って体を冷やしているので、水分代謝を良くする漢方薬

このように、自覚症状で判断します。ただし、現れている症状だけではなく、年齢や体質、生活習慣やストレスの状況なども大きくかかわってきますので、漢方薬だけで治療をすすめることはできないんですよ。

漢方薬だけに、頼ってはいけないということですか?

そうですね。漢方薬は、生活のなかで原因をつくっている習慣を正してバランスを整えることで、より効果を発揮するものです。私は、生活習慣で何が問題になっているかを、治療を始める前に確認します。とくに「冷え」というのは「未病」の状態。ご自身のバランスが崩れていることを意識するだけで、体を助けることができる、本来の体に戻せる可能性があります。小さな不調であっても、症状が悪化する前に改善できることもありますから、「未病」のサインを見逃さないことが大切です。

ゆとりをもって続けていける習慣がいい

たとえば、「冷え症」の人が取り入れやすい習慣ってありますか?

今日からすぐできる習慣なら、まず食事からですね。日常でもちょっとしたことを実践するだけでも、胃腸に負担をかけずに過ごすことができます。たとえばアイスや氷などの冷凍庫で冷やした食べ物を控えること。消化管が極端に冷えてしまうので、消化器本来のはたらきが低下します。常温の水を飲む、氷抜きの飲み物を注文するといったことは、すぐに実践できそうですよね。とはいえ、暑い日に冷たい物を飲みたくなることもありますよね。そんなときは、ティーブレークで温かい飲み物を飲む、夕食でお味噌汁や野菜スープを飲むというように、一日をトータルで考えて、相殺し、リセットすればいいんです。

1日のうちにリセットって、おもしろい考え方ですね。

「体を元の状態に戻す」という考え方は、家事でも仕事でも同じです。何事も集中していると、目、首、腕など特定の筋肉だけが緊張して血のめぐりが悪くなりますから、ときどき肩胛骨を回してほぐしてください。また、心身の疲れをそのままにすると不眠につながりますから、ぬるめのお湯にじっくり浸かって、一日の疲れをリセットしてください。自律神経のバランスが整い、布団に入ってからぐっすり休めます。

つらい「冷え症」も体を見直すチャンスに変える

そんなふうに自分で整えるコツがわかれば、冷え症の人の未来も明るいですね。

はい。「冷え症」の改善は、女性にとって良いことでしかありません。漢方医学的にみると、「冷えない」ということは、血液が体のすみずみまで届き、体のリズムが正常にはたらき、バランスが整っているということです。肌トラブルがなくなり、肌色も明るくなって、結果気持ちのバランスも整い、総じて明るくなります。美しく健康になれば、心身が安定し、いろんなことに前向きになって、体も良く動くようになり、より美しく健康になります。

上田ゆき子先生
上田ゆき子先生


50代の更年期を迎えても、若々しさを保つことはできるでしょうか?

もちろんです。女性には月経という月のリズムと、閉経を迎えるまで7の倍数で、体力の節目のような一生の大きなリズムもあります。そのなかで、女性の体力的なピークは30代後半から40代前半といわれ、そこから先は折り返し地点。「体がおかしいぞ」という最初の不調を感じ始めるターニングポイントでもあります。私の患者さんに80代のとても素敵なご婦人がいるのですが、今も元気に運動して、心も明るく前向きです。ただ、ずっと頑張っていたのではなくて、ピークを越えたあたりで、「あれ、前と違うぞ」という体のサインに気づき、きちんと生活習慣を見直して、その後美しく年齢を重ねてきただけ。更年期の前のステージで小さな不調に気づき、体のバランスを整える習慣に変えていければ、更年期症状の感じ方は変わってきます。若い女性にとって「冷え症」はつらい悩みですが、人生のターニングポイントに現れるサインを見直せるチャンスでもあるんですよ。

上田ゆき子先生 プロフィール

平成9年旭川医大卒。同大学病院にて内科、麻酔科研修の後、北里研究所東洋医学総合研究所で2年間漢方研修に従事。現在、日本大学医学部 内科学系総合内科総合診療医学分野 研究員。日本大学医学部付属板橋病院にて 東洋医学外来を担当しているほか、ねりま西クリニックにて在宅診療、漢方外来を行う。日本東洋医学会専門医指導医、日本プライマリケア連合学会認定指導医。著書「薬食同源 漢方医がすすめる食材力レシピ」(洋泉社)、「女子漢方」(法研)他。