2019.05.01

漢方ブログ

冷え症さんの漢方のはじめ方

冷え症でお悩みの方のセルフケアとして大切なのは、食事や運動といった生活習慣の改善。病院に行くほどではないけれど、冷え症がつらいという方は、生活習慣を見直しつつ、市販の漢方薬を選んでみるのもいいかもしれません。

漢方の得意分野は「未病」

西洋医学では、検査で異常があることが治療の大前提です。検査で病気がある部分を特定し、その症状に対して治療していきます。

一方、漢方医学では、「病気を治療する」というよりも、「その人の体質や悩んでいる症状などをもとに、体の調子をどのように整えるか」を考えるため、病気が特定されていなくても、自覚症状の段階から対処をします。つまり、病気とまではいえないけれど、「冷えがつらい」「疲れがとれていない」「ぐっすり眠った気がしない」といった不調がある状態を「未病(みびょう)」といって、治療すべき症状として考えます。

たとえば、「いつも手足が冷えてつらい」という自覚症状に悩まされている人がいるとします。この場合、漢方では不規則な生活やストレス、食生活の乱れなど何らかの原因があって、体のバランスが崩れてしまい、体内で熱がうまく作り出せていなかったり、うまく運ばれていなかったりしているものと考えます。このような「未病」の状態から、生活習慣の見直しに加えて、体のバランスを整えていくのが漢方薬なのです。

漢方で考える体質とは

漢方では、独自の理論に基づいて体質を診るオリジナルの“ものさし”があります。それが「証(しょう)」と「気・血・水(き・けつ・すい)」です。漢方では一人ひとりの病態だけでなく、体質を重んじて漢方薬が処方されるのです。

そのため、ときにはニキビの治療なのにおなかを診たり、冷えの治療なのに生理(月経)の状態を聞いたりなど、治してもらいたい病気や症状とは関係のなさそうな部分も診察したり、内容を聞いたりします。それは、その人の体質を見極めた上で、その人に合う漢方薬を処方するために必要な診察の一つなのです。

「気・血・水」は不調のものさし

体を知るために不可欠な3つの要素が「気・血・水(き・けつ・すい)」。このうちのどれかが不足したり、過剰だったり、滞っていたりなど、バランスが乱れることでさまざまな不調が現れます。この不調を、「気・血・水」全体のバランスを整えることで改善していくのが漢方薬。そして、これに生活習慣でのセルフケアをプラスして、バランスの乱れたところを整えていくのが、漢方とのつきあい方です。

「気(き)」は心と体をめぐるエネルギー

「気」は元気の「気」で心と体をめぐっているエネルギーを表します。「元気」の気、「気力」の気、「気合い」の気。自律神経(体の機能を調整する神経)のはたらきに近いと考えられています。「気」の異常は、「気虚(ききょ)」「気滞(きたい)」「気逆(きぎゃく)」の大きく3つに分けられます。

気虚 気の量が不足した状態で、心身の活力が低下する。特徴的な症状は、無気力や疲労感、だるさ、食欲不振など。
気滞(気うつ) 気の流れが停滞した状態で、気分が落ち込む傾向がある。特徴的な症状は、頭重、のどがつまった感じがする。息苦しい、おなかが張るなど。
気逆 気の流れが逆流した状態。特徴的な症状は、のぼせ、動悸、発汗、イライラなど。

「血(けつ)」は血液とそのはたらき

「血」は血液や血液によって運ばれる栄養素、熱を表します。血液が運ぶ栄養素なども含まれます。「血」の異常は、「血虚(けっきょ)」「瘀血(おけつ)」の2つがあります。

血虚 量を十分につくり出せない場合や消費が多い場合に、血が不足し、血行不良になる。特徴的な症状は、貧血、皮膚の乾燥、脱毛など。
瘀血 血が滞り、血行不良が起こっている状態。特徴的な症状は、月経異常、便秘、おなかの圧痛(押すと痛む)、色素沈着などが起こる。

「水(すい)」は体液とそのはたらき

「水」は、体内の液体のうち、「血」を除いたもののことを表します。水分代謝や免疫システムなどにかかわっているものとされています。「水」の異常は「水毒(すいどく)」または「水滞(すいたい)」と呼ばれます。

水毒(水滞) 体の中の水分の流れが悪くなり、一部に余分な水が溜まった状態になる。特徴的な症状は、むくみ、めまい、頭痛、下痢、排尿異常など。

自分の体質はどれ?

体質に合わせた対処法

「証」とは、その人の状態(体質・体力・抵抗力・症状の現れ方などの個人差)を表すもの。本人が訴える症状や、体格などの要素から判別します。そして漢方ではその「証」に合った漢方薬が選択されます(※)。したがって、同じ症状でも、自分の「証」と他の人の「証」が違えば、当然、選択される漢方薬も違ってきます。他の人にすすめても、効果が期待できない可能性があるわけです。

※証に関係なく、症状などから判断して漢方薬を選択するケースもあります。

「証」の分け方「虚・実」

「証」の分け方のひとつに「虚・実(きょ・じつ)」があります。
体力や抵抗力が充実している人を「実証(じっしょう)」、体力がなく、弱々しい感じの人を「虚証(きょしょう)」といいます。

虚証の特徴は次のとおりです。

実証の特徴は次のとおりです。

では、漢方薬は、どこで実証向きか虚証向きかをみるのでしょうか。
ヒントになるのは、漢方薬の効能・効果に記載されている体力の表記です。

ドラッグストアなどで販売されている漢方薬の効能・効果をみると、体力の程度について、体力充実~体力虚弱の7つと、体力に関わらず使用できる、といった合計8つに分類されています。

たとえば、かぜをひいたときの漢方薬に、「葛根湯」と「桂枝湯」がありますが、「葛根湯」は体力中等度以上、「桂枝湯」は体力虚弱に分類されています。 このように、同じかぜのひきはじめに飲む漢方薬でも、体力によって適している漢方薬が変わってくるのです。

漢方でいう「四診」とは

漢方では、主にこの「証」と「気・血・水」の2つのものさしを診て、その人に合った漢方薬を導き出します。このとき、「四診(ししん)」という独自の診断方法が用いられます。

望診(ぼうしん)は目で

顔色や表情、態度、姿勢、体型などをみます。舌を診る「舌診(ぜっしん)」をすることもあります。舌の色や形、舌の表面の「舌苔(ぜったい)」の色や状態は「証」を見定めるポイントとして重視されます。

聞診(ぶんしん)は耳と鼻で

声の大きさやトーン、話し方、せきの出方、たんの様子(つまり方)、呼吸音などを耳で聞く診察です。また、鼻で体臭や口臭を嗅ぐこともあります。

問診(もんしん)は訴えで

自覚症状以外にも、これまでにかかった病気、食べ物の好み、ライフスタイル、仕事、月経の様子などさまざまなことを聞きます。これらの情報が「証」を見定める重要な情報となります。

切診(せっしん)は触れて

体に触れてその状態をみます。大きく分けて、脈をみる「脈診」と腹部をみる「腹診」があります。「脈診(みゃくしん)」は、脈が弱いか強いか、速いか遅いかなどを、一方、「腹心(ふくしん)」は、腹部の緊張や抵抗、圧痛などを確認します。

漢方薬はどうやってはじめるの?

薬局やドラッグストアにもある漢方薬

漢方薬は、西洋医学の病院でも処方されることがあります。なかには漢方を専門にした医師もいるので、相談したい場合は東洋医学科や漢方外来などの診療科がある病院を受診するといいでしょう。漢方専門医のいる病院は、日本東洋医学会のホームページで検索できます。

また、多くの漢方薬が、薬局やドラッグストアなどでも市販薬として販売されています。市販薬と病院で処方される漢方薬では、配合成分量と用法・用量などが異なることがあります。また、パッケージには、適した症状や体質などがわかりやすく表記されています。
詳しく知りたい方はこちらからチェックしてみてください。

このように身近なところでも手に入りやすい漢方薬ですが、わからないことがある場合は、店頭の薬剤師や登録販売者に相談するのがよいでしょう。

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